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福井地方裁判所武生支部 昭和33年(わ)1号 判決 1958年12月19日

被告人 沢崎美三郎

主文

被告人を懲役三年に処する。

未決勾留日数中一五〇日を右本刑に算入する。

押収目録証第三号の物件を被害者佐藤愛之助に還付する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

罪となるべき事実

被告人は、(1)昭和二八年八月一日福井簡易裁判所において窃盗罪により懲役一年二月(昭和二九年一一月一日執行終了)に、(2)昭和二九年八月五日武生簡易裁判所において同罪により懲役八月(昭和三〇年一二月六日執行終了)に、(3)昭和三一年八月二七日福井簡易裁判所において同罪により懲役一〇月(昭和三二年六月五日執行終了)に各処せられ何れもその頃右各刑の執行を受けたものであるが、なお常習として、

(一)  昭和三二年一二月二七日福井市佐佳枝上町五〇番地洋服商丸善こと鰐渕武森方店舖において同人所有の紺色ズボン一本(価格金三、三〇〇円相当)を窃取し、

(二)  昭和三三年五月一六日京都市下京区七条通り大宮西入る花畑町五九四番地洋服商佐藤愛之助方において同人所有のグリーン色ギヤバーズボン一本(押収目録証第三号、価格金三、一〇〇円相当)を窃取し、

たものである。

証拠

判示冒頭記載の前科を有しそれぞれ各刑の執行を受けた事実は、被告人の当公廷における供述、検察事務官作成の前科調書並に金沢刑務所作成の刑の執行についてと題する書面の各記載により認める。

判示(一)の事実は、被告人の当公廷における供述、司法警察員の現行犯人逮捕手続書、鰐淵武森の司法警察員に対する供述調書の各記載により認める。

判示(二)の事実につき、被告人は判示ズボンは水色女物セーター(証第二号)及び桃色女物セーター(証第一号)とともに大津市の競輪場前で買受けたと主張し、或は又同市の琵琶湖競艇で木村と言う者より預つたと主張している。そこで佐藤司郎の司法巡査に対する供述調書並に佐藤婦左乃の検察官に対する供述調書の各記載によると、判示京都市下京区七条通り大宮西入る花畑町の佐藤愛之助洋品店より同人所有の判示ズボンが昭和三三年五月一六日午前八時三〇分頃より同日昼過ぎまでの間に窃取されていることが認められる。更に司法巡査作成の逮捕手続書(昭和三三年五月二八日付)、辻与三治(被告人)作成名義の任意提供書(同年五月一六日付)並に当裁判所の証人松井淳至、池田正行の各証人尋問調書の各記載によると、被告人が右盗難のあつた五月一六日午後一時頃司法巡査より挙動不審者として右佐藤愛之助方店舖より男子直線歩行一五分乃至二〇分の距離にある同区木屋町通り七条の高瀬川に掛つた橋附近の路上で職務質問を受けた際被告人が判示ズボン外二点(同証第一乃至三)を風呂敷に包んで所持していたことが認められる。そうすると盗難被害日時は近接しているが、被害場所附近で被告人が所持していたのではないから、これにより直ちに被告人が判示ズボンを窃取したと言うことはできない。ところが(1)被告人の当公廷における供述、三根夏子の検察官に対する供述調書並に被告人の検察官に対する供述調書(同年六月一〇日付)の各記載を綜合して、被告人が従来農業に従事していたところ判示前科の刑の執行を受け刑務所を出所してから後判示(一)の犯行に及び福井地方裁判所武生支部へ起訴せられ同裁判所において公判審理中病気のため勾留の執行を停止せられ病院に入院中逃亡し、(その後被告人は島根県下で炭焼をしていた旨供述している)、それから被告人が同年三月中京都市内で元接客婦をしていた女と旅館において同棲し同女には職を告げず毎日外出しては夕方帰るような生活を続け同女に対し寝巻、セーター等二、三点の衣料品の外金二、〇〇〇円を与えたに過ぎず逮捕(同年六月一日)まで約二ヶ月余過していたこと等が認められるところより、被告人が衣料品、雑貨等の行商又はそれ等の店舖に雇われているとか衣料品、雑貨等を数多く所持して歩く職業ではなく又それらの品物を多数必要とするような境遇になかつたこと、(2)被告人の当公廷における供述、同法巡査作成の同年五月五日付及び同月二七日付各捜査経過報告書並に右証人池田正行の証人尋問調書の各記載並に押収目録証第五乃至一〇記載の各物件の現存を綜合して、被告人が右に職務質問を受ける以前である同年五月五日午後一時頃同市南区東九条岩本町の路上において司法巡査より挙動不審者として職務質問を受けた際折たたみ式女物洋傘(証第五号)、女物カーデイガン(証第六号)、水色子供セーター(証第七号)の三品を、同月二七日午後〇時五〇分頃同区東九条須原通り八条下る四ツ辻の路上において司法巡査より挙動不審者として職務質問を受けた際男物セーター(証第八号)、女物セーター(証第九号)女物レインコート(証第一〇号)の三品をいずれも異る正札が付いたままそれぞれ風呂敷に包んで所持しておりいずれも各司法巡査に任意提供していることが認められること、(4)右証人池田正行の証人尋問調書の記載によると、被告人には判示のとおり窃盗の前科を有するがその中に万引又は店舖荒しの前科があること、(5)右証人松井淳至、池田正行の各証人尋問調書並に被告人の司法巡査に対する供述調書(同年六月一日付)の各記載によると、被告人が雨の降るような天候でないときでもレインコートを着用し風呂敷を持つており万引に都合のよいと思われる服装をしていたこと等を状況証拠を綜合して、判示(二)の事実に照応する窃盗を為したことを認定することができる。

更に右に認定した判示各前科の点、判示(一)(二)の各事実を合せ考えて判示常習の点が認められるので、判示事実は総て犯罪の証明十分である。

累犯となるべき前科

被告人が前示(2)(3)のとおり刑に処せられ前示のとおりその各刑の執行を終つたことは前段認定のとおりである。

適条

盗犯等の防止及処分に関する法律第三条第二条刑法第二三五条、第五六条第五九条第五七条第一四条、第二一条、刑事訴訟法第三四七条第一項、第一八一条第一項本文。

(裁判官 市原忠厚)

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